■「いつかやらなきゃ」を明日にしないために
大きな地震や台風、突然の停電や断水。テレビで見たりSNSで流れてくるたびに胸がざわつき、「防災グッズをそろえておかないと」と思う。だけど、忙しい毎日の中で後回しにしてしまう――これはきっと多くの家庭に共通する感覚だと思います。
私自身もそうでした。子どもが生まれてから「備えなきゃ」と思いながらも、防災用品のリストを見ては圧倒され、何から始めたらいいかわからなくなって諦めてしまう。気づけば半年、1年が経っている。
でも、ある台風の日、夜に停電になり、真っ暗な部屋で泣き出した子どもを抱えながら、「あのとき準備しておけばよかった」と心の底から思いました。そこから少しずつ、完璧ではなく“暮らしに馴染む準備”を始めるようになりました。
この記事では、特別なサバイバル術ではなく、普段の生活の延長線でできる家庭の防災準備についてお話します。3日分の水、非常食、防災バッグ――よく聞く言葉だけれど、実際に“自分の家族にとって必要なものだけを選んで備える方法”にこだわってお届けします。
■ 防災は「何を買うか」ではなく「どう暮らすか」から始まる
一般的な防災リストはとても役立つけれど、そのまま真似しようとすると疲れてしまいます。
大事なのは、「うちの家族なら、停電になったときに何に困る?」「断水になったらまずどこで不便を感じる?」と、暮らしの視点で考えること。
それは家族構成や生活スタイルによっても変わります。
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小さな子どもがいるのか
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高齢の親と暮らしているのか
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ペットがいるのか
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アパートなのか戸建てなのか
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オール電化か、ガスも使える家か
条件が違えば、必要な準備も変わります。たとえば、赤ちゃんのいる家庭ではおむつや粉ミルクが最優先。高齢者のいる家庭なら、持病の薬や簡易トイレ。ペットがいる家ならフードとキャリーケース。“誰のための防災か”を考えることこそ本当の備えの始まりです。
■ 防災バッグの中身は「命を守るもの」だけでいい
防災バッグというと、何十種類ものアイテムを詰め込んだ大きなリュックを想像しがちですが、最初はそこまで完璧でなくて大丈夫です。
まずは「助けが来るまでの数日間、自分の命と体を守るためだけのセット」を用意します。
● 防災バッグに入れる“最低限”のもの
| 大カテゴリ | 具体例 |
|---|---|
| 水分・食べもの | 500mlの水×人数分、ようかん・ゼリー飲料・ビスケットなど |
| 衛生用品 | ウェットティッシュ、マスク、生理用品、簡易トイレ |
| 防寒・保温 | アルミブランケット、薄い上着、靴下、カイロ |
| 情報・連絡手段 | モバイルバッテリー、携帯ラジオ(手回し・ソーラー式が理想) |
| 怪我・病気の備え | 絆創膏、消毒液、常備薬、子どもの医療用手帳や保険証のコピー |
大切なのは、「持って走れる量・重さ」だけにすること。
いくら中身が充実していても、持ち出せないリュックでは意味がありません。
■ 備蓄は「3日分」からでいい。買い足しすぎず“回しながら使う”
「防災用に10年保存できる非常食を大量に買わないといけない」
そんなイメージがあるかもしれません。でも実際の災害時、最初の数日は支援も届きにくく、自分たちで生活を乗り切らなければいけません。
つまり備えるべきは、“助けが届くまでの72時間(=3日間)を生きるための備蓄”です。
● 家にある食材も立派な「防災食」になる
特別な防災食品だけを買わなくても大丈夫です。
普段食べているレトルト食品、缶詰、パックご飯などを「使いながら備える=ローリングストック」を意識すれば、無駄も出ません。
| 種類 | 備えておくと安心なもの |
|---|---|
| 水 | 1人につき1日3リットル × 3日分(飲料+調理) |
| 主食 | パックご飯、乾麺、冷凍うどん、シリアル、クラッカー |
| おかず | ツナ缶、焼き鳥缶、サバ味噌缶、レトルトカレー、味噌汁パック |
| 嗜好品 | チョコ、飴、お茶パック、インスタントコーヒー |
● ローリングストックのシンプルなやり方
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いつもより少し多めに食材・水を買う
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家で消費する
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使った分だけ補充する(常に一定の量をキープ)
これだけで、特別な「防災棚」や大げさなストックは必要ありません。缶詰やレトルトを食べる日を「手抜きごはんの日」と名付けてしまえば、気負わず続けられます。
■ 停電になったら、家はどうなる?
夜の停電は想像以上に不安を呼びます。真っ暗な部屋、冷蔵庫も止まる、スマホの充電が減っていく…。
特に子どもがいると泣き出したり、怖がって眠れなくなってしまうこともあります。
● 停電時に「これだけはあってよかった」と思ったもの
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電池・手回し・ソーラー式のライト(懐中電灯より“ランタン型”だと部屋全体が照らせる)
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モバイルバッテリー(2台以上)
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カセットコンロ+ガスボンベ(オール電化の家庭ではとても重要)
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保冷剤・クーラーボックス(冷蔵庫が止まっても食材を守れる)
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子どもの好きなお菓子、安心するぬいぐるみやブランケット
特に夜の暗さは、想像以上に精神的な疲れにつながります。
手元を照らすライトではなく、家族の表情が見える“柔らかい光”があるだけで安心感が違うと感じました。
■ 断水したときの暮らしのリアル
水は飲むだけではありません。料理、トイレ、手洗い、食器洗い、風呂、洗濯――生活のほぼすべてに関わってきます。
だからこそ「飲み水」と「生活用水」を分けて考えることが大事です。
● 飲み水とは別に「生活用水」を確保しておく
生活用水とは、トイレの流し水や手洗いに使える水のこと。これも断水から備えておく必要があるものです。
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お風呂の残り湯はすぐ流さない(貯めておく)
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ポリタンクや水タンク(10L〜20L)を1つ用意
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赤ちゃんがいる家庭なら、ウェットティッシュは多めに常備
また、断水時に困るのがトイレです。携帯用の簡易トイレやゴミ袋・凝固剤をセットにしておくと安心します。ホームセンターや100円ショップでも手に入ります。
■ 「家族が同じ情報を知っていること」が最大の防災になる
防災バッグや備蓄があっても、家族の誰も場所を知らなかったら、意味がありません。
また、災害時に避難する場所・連絡手段が決まっていないと、互いに探しあってしまい、危険な状況になることもあります。
● 家族で共有しておきたいこと
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防災バッグの置き場所
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モバイルバッテリー・懐中電灯の場所
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避難所の位置(家・学校・職場からどう向かうか)
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連絡が取れないときの集合場所
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家にいないとき、子どもだけのときにどう行動するか
紙にして冷蔵庫や玄関に貼っておく、スマホのメモ共有アプリで家族で見られるようにしておく――方法は何でも構いません。
大切なのは「自分以外の人も知っている」「忘れても見返せる場所にある」ことです。
■ 子ども・高齢者・ペットがいる家の「リアルな防災」
防災の準備は、大人だけの視点では足りません。家族の中で弱い立場になりやすい存在――乳幼児・高齢者・ペット――がいる家庭では、対策のポイントが大きく変わります。
● 子どもがいる家庭で備えておきたいもの
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おむつ・おしりふき・ミルク・離乳食(最低3日分)
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使い慣れたスプーン・マグ・哺乳瓶など
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「いつものおやつ」も大事。非常時に安心できる存在になります
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子どもの保険証・母子手帳のコピーはジップ袋にまとめて防災バッグへ
避難所では大人以上にストレスを感じやすいのが子どもです。慣れたブランケットや小さなおもちゃが1つあるだけで、落ち着くこともあります。
● 高齢の家族がいる場合
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処方薬(最低1週間分)とお薬手帳のコピー
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歩行が不安定な人は、避難ではなく“在宅防災”も視野に
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温めなくても食べられる栄養食品・ゼリー飲料・介護食
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寒さ対策(膝掛け・カイロ・毛布など)
避難が難しい場合、家の中で安全を保つ「在宅避難」の環境を整えておくほうが現実的な場合もあります。
● ペットと暮らしている家庭では
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ドライフード・水・器・ペットシーツ・トイレ砂
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逃げ出さないように キャリーケースやリード は必須
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避難所によってはペット不可の場合もある → 事前に自治体の情報を確認
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迷子札やマイクロチップも迷子防止に重要
ペットは家族の一員ですが、非常時には一緒に避難できないケースもあります。だからこそ、普段から「もしもの時、この子をどう守るか」を家族で話しておくことが大切です。
■ 防災を“暮らしの延長”にする方法
防災用品を揃えて満足してしまい、気づけばクローゼットの奥で埃をかぶっていた――そんな経験はありませんか?
防災は「新品を保管しておくもの」ではなく、暮らしの中で出し入れできる状態にあることが大事です。
● 我が家が防災を暮らしに馴染ませた工夫
| 工夫 | 理由・効果 |
|---|---|
| 防災バッグは「玄関の靴箱の横」に置いている | いつでも持ち出せる & 家族全員が場所を把握 |
| 水は「リビング収納の下段」に24本まとめて置く | 普段も使える/ローリングストックしやすい |
| カセットコンロはキッチンの見える場所に | 日常の鍋料理や停電時の調理にも即対応 |
| 非常食=普段のご飯 | “特別な防災食”ではなく、缶詰やレトルトを回しながら使う |
「防災のためだけの空間」を作るのではなく、生活の中で使える場所に置き、普段から使い、使いながら備える。 この方法だと、管理しやすく、忘れません。
■ 災害後の「心」を守ることも防災の一部
地震や台風のあと、人が最初に疲れるのは体ではなく心です。
停電・断水・家の片づけ・子どもの不安・情報が入らない不安……。どれも目に見えないストレスになり、時には体調不良として表れることもあります。
● 心の負担を軽くするためにできること
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家族で会話をする。「怖かったね」「大丈夫だよ」と声をかけ合う
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子どもが何度も同じことを聞いてきても、否定しないで受け止める
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ニュースを見続けない。必要な情報だけ選んで取り入れる
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匂いや音の少ない静かな場所で深呼吸する
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泣きたくなったら泣いてもいい。大人でも
防災というと「水」「非常食」「ライト」の話ばかりになりがちですが、「心を守る」という視点を持てたとき、初めて災害に立ち向かえる暮らしになるのだと思います。
■ 完璧じゃなくていい、“守れる暮らし”を少しずつ
防災の準備は、100点を目指さなくていい。
大切なのは、「昨日より少し安心できる家になった」と感じられることです。
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防災バッグがひとつできた
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水を1箱だけ買った
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カセットコンロを買ってみた
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家族と避難場所の話をしてみた
そんな小さな一歩が、いざという時に大きな安心になります。
災害のことを考えるのは苦しくなることもあります。
でも、「備えているから大丈夫」と言える暮らしは、大きな安心と誇りになります。
それは、家族を守る力であり、自分自身を守る力でもあります。


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